shibuya1000

Shibuya 1000_006 「シブヤ東西合戦」

2014年3月13日(木)18:00~

@渋谷ケアコミュニティ・美竹の丘2F多目的ホール

04 「渋谷の東西文化」

西 樹(シブヤ経済新聞編集長)

プロフィール

西 樹(にし たてき)

兵庫県出身。青山学院大卒。大手PR会社を経て花形商品研究所を設立。2000年4月、広域渋谷圏のニュースサイト「シブヤ経済新聞」を開設。各地のパートナー企業と共に「みんなの経済新聞ネットワーク」を形成している。(http://shibukei.com

今ご紹介頂きました、シブヤ経済新聞の西と申します。よろしくお願いします。皆さんの熱い渋谷に対する思いが続く中、大変僭越です。今回、松下さんの方から、「東西文化」というお題を頂きました。その時にお話をしていたのが、恐らく開発関係の方は、平面の地図をよく、上から見ることがあるので、東と西という概念が、ものすごく頭に強烈にインプットされていると思います。しかし実際、うちの編集部の中でいろいろ話し合った結果、西口がどうしてもハチ公口になるので、そこで、渋谷に来ている若い子たちに、東口とか西口とかという質問をしてみたら、答えられないのではないかという話も結構ありました。だから意外と、渋谷というのは、東と西という大きな文化圏がありますが、内在している人には意外とその認識がないのかな、と思ったりしています。私も青学の出身なので、4年間青山のキャンパスに通いました。今思えば、4年間通って、渋谷の駅まで歩いても結構何もなく、飲みに行くとなるとハチ公口から遊びに行くという4年間を過ごした記憶があります。なので、東と西ということを改めて考えてみたので、お話をさせて頂きます。

■ハチ公が3匹に!

最初にトピックスです。この前の大雪で、全国に様々な雪だるまがつくられ、ネット上では様々な雪だるまの画像が出ました。その時ハチ公の横に、誰かが深夜から朝にかけて、同じようなハチ公像を雪でつくりました。これが、ツイッターの中で話題となり、我々もこれを写真に撮ってあげて、それで結果的にヤフーのトップページにこの左上の写真が出ました。やはりあれだけ全国でユニークな雪だるまがつくられているにもかかわらず、これが選ばれるというのは、ハチ公のもつシンボル性、キャラクター性といった、強力なアイコンを持った渋谷というのを改めて感じました。ちなみにあの右の写真は、後ろにもう一匹誰かが小さいものをつくりました。こっちから見ると3匹です。

■駅がコンパクトな幸せな渋谷の今後

私が、渋谷の街が好きなことのひとつに、駅の大きさがあります。大きな開発が行われた結果、渋谷駅も巨大なものになっていきます。もともとの駅を、グーグルマップで同じ縮尺で重ねてみます。濃いところが現在の渋谷駅で、薄いところが、小田急や京王、ルミネなどを含めた、新宿駅です。渋谷の駅の倍以上あります。さっきも各地に東西の文化圏があるという話が出ていましたが、渋谷の場合、非常に幸せだな、街にとってよかったなと思います。新宿や池袋は僕らも行きますが、これらの街というのは、線路越しに眺めることができません。お互い巨大な建物が立ちはだかっていて、駅の中を歩いて抜けてみないと向こうが見えません。ですが、渋谷は山手線と湘南新宿ラインは通っていますが、この線路がいわゆる東西を分けているという風に考えると、こんなに向こうが透けて見える。この近さ感というのは、東西に分かれてはいても、大きなメガシティの中では、極めて幸せな状況なのではないかと考えています。

今特に、東横線の東側が、だいぶ下がっていますから、今まで見たことのない方向に、向こう側が見えています。宮益坂の方からもマークシティの方が見えます。ハチ公口からの方もヒカリエのかなり下の方まで、今見えている状態です。再開発の計画では、ここはこのままフラットになって、広場になりますので、ここがいわゆる巨大な渋谷広場になっていきます。建物は高層化したものがいっぱいできますが、その中であえて、こういう巨大な広場を町の真ん中に持つというのは楽しみや面白さを感じます。

■渋谷の東西文化

なかなか、ここから東西に戻るのもつらいところがありますが、東西の話の続きをさせていただきます。文化に関しては、例えば、映画の拠点がどこにあるかと見ても、おおむね西にありながらも、東にも少しあります。それから、音楽です。渋谷は、ライブハウスがすごく多いです。これもおおむね西側に多いかなと。それから、アート系です。ギャラリーは少し駅から離れたところにあります。松濤の方から神宮前の駅にかけて結構広がっています。なので、どちらかに偏っているということは、特に見られません。

■シブヤノニシガワ

上から俯瞰してもなかなか分かりにくいので、「シブヤノニシガワ」というのを、どう短い時間にまとめられるかなと考えました。過去、藤原新也さんに、インタビューをさせて頂いたときにすごく渋谷話で盛り上がりました。今、代官山に住んでいらっしゃいます。過去、「渋谷」という本が出ましたが2009年ぐらいに映画化されています。本が出たのが2006年くらいです。お話をしていた時に、藤原さんが面白いこと言っていて、「渋谷は人間が地上から10センチ離れて歩いている」と言っていました。「幽体離脱みたいな感じかな。同じようににぎわっている新宿は幽体離脱していない。まだ雰囲気的に土着というのがある」ということをおっしゃっていました。「渋谷はわかりにくいけど、わかりにくいものには興味があって、これはいったいなんだろう。興味がわいてくる街だ」とおっしゃっていました。

それからもう一つは、「東急と西武が陣取り合戦をして、その間にいろいろ商業施設ができて、すごくノイズが発生している」。これは建物だけではなくて、もちろん来る人も、地方から来る人も、いろんなノイズ、音に藤原さんは興味を示していらっしゃっていました。「いろんなノイズが集まることで、結局ノイズ同士が音を消し去っている」。だから、音が実は渋谷はありそうでないのだ、と。ノイズキャンセルのようなものです。そう捉えていらっしゃると。これは非常に面白い話だなと思います。南の楽園に行ったときに、音がないから、リラックスできるのです。藤原さんの感覚でいえば、「渋谷は様々なノイズがあって、結果的に音が消し去られて、極めてリラックスできる場である」とのことです。

ある心理学のカウンセリング会社が、インターネットで、「あなたにとって一番気持ちいい場所はどこですか」と聞いた時に、藤原さんはなんと「渋谷センター街」と答えて、メールを送りました。あまりにも変なこと書くから、一度会わせてくれということで、藤原さんがこういう話をされたそうです。

こういう「音」というのは、どうしても渋谷はビジョンがあるので、それが前面に出ます。渋谷のビジョンの3面マルチも、3面シンクロさせて同じような広告が出るときもありますが、あれの目的というのは、基本的に絵を3つ出し、音を一つにすることです。そうすると、3面同時に広告を同じものを出す、そのスクランブル交差点の広告の音が一つになる。このために3面シンクロでやると聞いたことがあります。

こういうことを考えると、そんなに難しい話ではないですが、やはり「混沌」という言葉は渋谷の西が似合うかなと思います。混沌というのは決して悪い意味ではなく、様々な要素がここでミックスされている。“カオス”というのは、ギリシャ語の語源に、「深い淵」という意味があり、まさに渋谷にぴったりです。カオスな部分、これは昔から言われている部分ですが、これが一方にあります。

■シブヤノヒガシガワ

一方、「シブヤノヒガシガワ」は、時間もないので内容は飛ばしますが、どちらかというと「秩序」があるかと思います。大学、企業もたくさんあり、各種学校、専門学校も多く、それから国連大学やこどもの城みたいなところもあります。おそらく、ここのひとつのベースにあるのは、明治通り辺りまでが、昔の江戸と言われる範囲で、武家屋敷もあの辺までしかなかった。そうするとまとまった土地がその後、こういうものに繋がっていき、一つの安定感、秩序というのが生まれたのではないかと考えます。

■西側の“カオス”と東側の“コスモス”

秩序を英語にすると、オーダーという言葉もありますが、“コスモス”、いわゆる宇宙も指します。 これは、すごく抽象的な概念ですが、「西側の“カオス”」と「東側の“コスモス”」が、巧みにバランスが取れていて、冒頭に話したように、駅が小さく、あまりそれが離れていないため、上手くバランスが取れて、渋谷の独自の世界観をつくっていると考えます。当然、混沌の方の個性がかなり強くないと、新しい渋谷のイメージが生まれてきませんが、こういう感覚かな、というところを少しまとめてきました。

ただもう一つの側面を見ると、「混沌の西側」と「秩序の東側」の後ろに、こういう個性豊かな街があります。ここに出ている名前は、ほとんど全国区だと思います。ここの地域の人達だけが知っている名前ではなく、全国区です。このメインプレイヤーは渋谷であっても、次のさらなる先のプレイヤーの名前において、こんなにスタープレイヤーがそろっているのは渋谷圏だけじゃないかなと思います。僕はこれが渋谷の強さだと思っています。これがまた、バランスを取りながら、ものすごいシナジーを生んでいる。

ただ近年、ヒカリエが東側にでき、そういうことを踏まえ、アパレルも東側に店を出しています。それから、現代美術の新しいギャラリーも、東口側に結構出てきたりしています。「混沌」と「秩序」がだんだん近寄ってきている感じがします。この先考えられるのは、当然、“カオス”と“コスモス”がちょっと混じり合ってくるのではないか。特に、南口エリアの再開発もあるので、西と東がパカッと分かれたままではなく、混沌と秩序が新たに交わるところから渋谷ならではの新たな価値が、これから先、生まれてくるのではないかと思っています。非常に抽象的な概念にはなりますが、東と西、僕なりにまとめてみた言葉でした。どうもありがとうございました。

 

西 樹(シブヤ経済新聞編集長)
Tateki Nishi
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