shibuya1000

Shibuya 1000_006 「シブヤ東西合戦」

2014年3月13日(木)18:00~

@渋谷ケアコミュニティ・美竹の丘2F多目的ホール

01 基調講演「都市の古今東西――多様性の由来」

村松 伸(総合地球環境学研究所・東京大学生産技術研究所 教授)

プロフィール

村松 伸(むらまつ しん) 総合地球環境学研究所・東京大学生産技術研究所 教授

ユーラシア都市・建築史、メガシティ研究、なかなか遺産そこそこ保全学、まちリテラシイ学。主著に、『上海:都市と建築』、『中華中毒』、『象を飼う』、『シブヤ遺産』などがある。

■はじめに:各都市の東西

こんにちは。都市の古今東西の多様性の由来ということです。私は、今ご紹介頂きましたように、総合地球環境学研究所で、これは京都にありますが、今日も京都から来ました。川添さんからご連絡があって、こういうことできないかということで、川添さんがFacebookで、渋谷は東西に分かれているということを言っていました。歴史家というのはだいたい疑い深いもので、本当に東西なのだろうか、ととにかく疑って、それを壊すという話が私の本来の役目であると思っています。 「都市の古今東西--多様性の由来」ということでお話しさせていただきます。ついでに、古今東西上下というのがありますが、まずいくつかの都市で私が行ったところをご覧頂きます。本当に東西性というものが都市によって重要かということをお話ししたいと思います。

人が写っているのは関係ないので、向こう側だけ見てください。これはソウルなのですが、ソウルは川が流れていて、これが山です。ここに昔のソウルのお城がありました。川が、南北に流れ、こういう風水があるところです。中国の文化圏ですと、全部このように南に向いていて、川があることで東西に分かれ、こちらは渋谷みたいに繁華街になっています。そういった川が起点になり、東西に分かれているというのがこの街です。

これは北京です。北京はやはり南に向いていますが、実はこの辺に川があるので、はっきりしていません。東西軸、南北軸、むしろいろいろなところに四方八方に広がっていくというのが北京の特徴です。ですから、東西性もあるといいながら、あまりわかりません。

これはシンガポールです。シンガポールは、島ですが、ここにシンガポール川があって、そのこっち側に西洋人たちが街をつくって、東西性があるといえば、あります。

これはカルカッタです。カルカッタは、色々なものがあり、市場があって、郊外には郊外住宅地ができていたり、街の中には人が夜、朝寝ていたりしています。ここは、川があって、こちら側にイギリスが植民地をつくります。川のこちら側に、ブラックタウンみたいなのがあり、非常に貧しい人たちが住んでいるところです。ここも川があることによって、東西性というのができています。東西というのは思った以上に、都市の中にあるということがわかります。

これはロサンゼルスです。ロサンゼルスは、ここの砂漠の中にあり、南北の中にあって、グリッド上のものをつくっていますが、東西性というものはあまりなく、こっち側が海になってしまっているので、南北性というのが強いです。あまり都市を分類するよりも、均質化するように向かっています。

これはヘルシンキです。ヘルシンキは小さい街ですので、ここに鉄道が通っていて、その両側が、東西性があるかどうかというのは、若干不明です。南の方に住宅地があって、この辺が元々お城であったりして、分割の仕方がわかりません。

これはジャカルタです。ジャカルタは、今私達が研究しているところですが、ゴゴールというところがあって、ここにすごく巨大な、東京に次いで大きなジャカルタ都市圏というものができています。ここに山があって下っていて、大きな川がないですが、東西というよりも、森林があり、チャイナタウンがあり、むしろ南北に分かれると思います。

これは京都です。京都は明らかに東西に分かれていて、ここに鴨川があります。鴨川のこちら側に平安京ができています。東山の方に広がっていて、こちらとこちらで明らかに雰囲気が違うようになっています。ただ一方で、南北軸というものもあって、ここに平城京の皇居があり、鉄道がここにありました。鉄道によって、南と北に分かれています。

さて、東京です。東京はあとでお話ししますが、これは渋谷です。ここを大きく見るとどう東西性があるのか、南北性があるのかわかりづらくなっています。これは後でお話しします。

■都市は何が違うのか

本日4つのお話をします。都市というのは何が違うのか。それから、都市の多様性というのはなんなのか。どういう意味なのか。どうして都市はこんなに多様なのか。渋谷の多様性と東西性というのを簡単にお話ししたいと思います。

まず、都市は何が違うのか。これは、世界中の都市の分布です。夜の照明が光っていて、どこに都市があるのかとだいたいわかります。ところが、人口によって地図の形がデフォルメされ、変わっています。この南米は都市の形が小さくなっているし、インドは大きくなっています。ここら辺も大きくなっています。象とタツノオトシゴみたいになっています。それからもう一つ光っているところが、実は巨大都市、メガシティというところです。ここら辺はいっぱいあります。ここら辺は大きいにもかかわらずあまりなく、ここだけに集まっています。ですから、都市の分布の仕方というのは、たぶんこの辺、この辺、と、これが、都市が違っているということの一つです。

メガシティというのは、だいたい一千万人以上の都市を呼んでいます。それが、現在世界中で18ありますが、だいたいこういうところに分布していて、ヨーロッパにはない。これも、多様な姿の小さい都市がいっぱい集まっているところ、大きな都市が集まっているところ、という風に、世界中に均質的に同じような都市が広がっているという訳ではなく、都市の分布というところの多様性というのがあります。

これは、今言ったメガシティを「人口密度」でつくったものです。高さが人口密度です。カイロは、すごく人口密度が高い。それからカラチとかも高い。東京は、ばーんと広がっています。18の都市、メガシティで比べたときも、必ずしも全部が均質ではなくて、東京や大阪、モスクワなどは、低中密度のものが広がっているというのがわかります。それから、反対にカラチなどは、高密のものがぎゅっとつまっているという風に見えます。その中間段階があって、私達がやっているジャカルタやカルカッタは、低密度と高密度が広がっています。これは、仮説ですが、おそらく、貧しい人、それからお金持ちっていうものが、たくさんいて、差があって、だいたいこういうカイロや上海に現れてきます。都市の分布の仕方も多様ですが、都市の中の人口密度を見ても、世界中の都市はいろいろ違っている。

次に「人口の動態」ですね。これは四千年前からずっと105の都市の人口を見たものです。これが渋谷のある東京です。動き方というのがそれぞれ若干違っています。私たちはこれを、都市発展の経路依存性と呼んでいます。コンパクトシティのように呼んでいるヨーロッパの都市と、日本の都市というのは明らかに発達の経緯段階というのが違っています。江戸や北京などはここら辺が大きくなっています。第3世界のジャカルタのような途上国は20世紀になってから変化しています。そういった色々な違い、現在の状況だけではなく、動的な変化、時間的な変化によっても、都市の状況というのは多様性があるというのがわかります。

もう一つ、これは「里山インデックス」というものです。都市の中にある自然の形態というのは、建築をやっている人たちは目で見るのですが、それを数量化するのが里山インデックスというものです。その混在度、土地の利用度がどれくらい混在しているかというものです。それを里山インデックスと呼んでいます。それが地域によって違っている。東南アジアは非常に混在度が大きい。それに比べて、アフリカ、西アフリカは小さい。砂漠のところなので、土地の利用の多様性が低い。日本は、大きいということがわかります。ですから、これもそうですが、都市の中の緑の状況、あるいはそれが農地であるかどうかということを見てみると、都市というものが便宜上に世界中の都市は多様であるということがわかります。

それから風景です。これはジャカルタで、インドです。東京であったら明らかにそこがどこであるかすぐにわかります。そういった風景というものが違います。

それから人や住まいというものも明らかに違っていて、こういったそれぞれ、人、服装、建物というものも違っています。

■都市の多様性とは

ここで、「都市の多様性」というのはどういうことかということを話してきました。風景が違っていたり、人が違っていたり、建物が違っていたり、あるいは都市の分布の仕方、あるいは混在度が違っている、人口密度の分布が違っている、いろいろな言い方があります。では一体、都市の多様性とは何だろうというのが、混乱してきていると思います。

もう少し整理して、都市の多様性というものを定義したいなと思います。「生物多様性」というものがあります。生物が多様であるというのは皆さん言いますが、実は生物多様性というのは3種類の多様性があります。まず一つここにあるのは、生態系の多様性があります。たくさんの生物がいる。自然の中にこういったものが多様にあるという、生態系の多様性と言います。それから種の多様性。いろいろな生き物がたくさんいるというのを種の多様性と言います。それから、遺伝子の多様性。同じような雀でも、遺伝子が違っている。そういったものを遺伝子の多様性と言います。これはやはり生態学では一番基本なことですが、私達一般の人たちの言う多様性というものは、混乱しています。それを、整理しないとお互い議論が進みません。

その前に、都市って一体なんなのかというのが、これもよくわかりません。「都市」というのは世界中の都市それぞれによって、都市の概念が違います。例えばアフリカだと、学校があるところを都市と言います。それぞれ定義が違っています。都市の多様性、都市がなぜ違っているかを考える時に、まず都市というのは一体何かということ私達は考えなければいけません。世界の人口、都市の人口が、最近半分になったということを言っています。それを密度ごとにやって行くと、ちょうど2000ぐらいのところで半分に切れるので、そういった世界中のバラバラの定義を統一するには、「密度」でやったら良いのではない。そこで、ちょうど平方キロメートルあたりの2000人ぐらいあたり以上を都市と呼ぼうとしています。それ以下は都市ではないです。そういったところを見ると、世界中の都市というのがわかると思います。

もう一つ私達が都市を見るときに、「居住環境類型」というものを考えました。これは都市をもう少し高解像度で見るときに、さっき言った大きな都市になるか小さな都市になるかです。その生態学をやっている方ですと、この土地利用は、都市は建物が建っている部分が大きいのですけれども、その人たちにとって都市の内部というのは建物が建っているところで一律になってしまいました。それ以上、細かく見ることはできないので、私達はそれをこういう都市の中の250m×250mの「都市環境類型」というのをつくって、それでいろいろ類型化しているというのが都市の居住環境類型です。

これによって何がわかるかというと、世界中で色々の都市があるときに、そこにある居住環境類型というのが、バラバラであるもの、共通であるものというのがわかるかと思います。世界的に共有されている型というのが、高層住宅です。どこにでもあります。こういう形。それから郊外住宅というのは世界中どこにでもあります。ところが、都市の中にある非常に高密度なところ。それはジャカルタにもありますが、カイロは、高密度だけど、2階建てになっています。そういった都市が非常に伝統的な場所で発達したもので、それが世界中非常に多様なものがあります。それから農村は、都市が発展しているときにおこってくる地域ですね。こういったところも変わってきます。例えば東京でいうと、これは多摩の辺りの農村です。それからこれは、板橋にある木造の密集地です。そういったところは古い伝統に培われているので、とても多様性が高いと思っています。

これはさっきいろいろなところを見ましたが、形が似たり、似ていなかったりしています。非常に細かく見て、外から見るとこの大きさだけが突出してどう違うのかがわからないのですが、もう少し見ていくとよくわかるということです。これは、この後私のあとにお話しする人たちが、もう少し高解像度で見てくれて、そこで出てくる概念であると思います。

そういった今見てきたものを使うと、都市の多様性というのは3つあると私は考えています。一つは、「生態系の多様性」、これは生態学です。この都市全体の多様性というのがまず都市の違いです。東京と大阪が違う、東京とブエノスアイレスは似ているなど。そういうような都市ごとの、この都市というのはさっき言ったように、人口密度が2000人以上のところですが、その違いですね。そういった都市の違い。それから、二つ目は「種の多様性」というのがあるのですが、この都市内にある居住環境類というのがあって、どうも私は今回渋谷の中でいろいろ言われているのが、この都市内におこっている都市環境類型、都市の中のある集まりの違いというのが、渋谷の東西合戦で言っているのではないかなと思っています。それから三つ目は、「遺伝子の多様性」に相当するもので、ここにあるいろいろな建物や人などそういったものの多様性というものがあります。この中で、どれくらい違いがあるのかということです。今日のいくつかの話し中で、これとこれが今日の渋谷の東西合戦の中でテーマになってくるのではないかと考えています。

■なぜ都市は多様なのか

今言った3種類のように、なぜ都市は多様なのだというところです。まずは「気候」です。それから地質学的な立地、それが生態系に影響して、農業に影響する。それから文明的な立地、歴史的経路。こういったものが都市に対する価値観というものが出来てきて、多様性が出てくるのかと私は考えています。

これは非常に大きな世界地図です。気候地図です。私達がいるのはここです。世界中一緒であるわけはなくて、やはり中学や高校の地理の中に出てくる気候図です。こういう日本はモンスーン、あとは砂漠があるところ、それからこういったところは海洋性型。いろいろ世界中は違ってきています。ジャングルがあるところ、熱帯雨林。いろいろ違ってきています。恐らくこれが、都市の一番の全体像を決めているものの一つであると思います。

もう一つは「プレート」です。プレートというのは、都市に影響しているのではないかなと私は考えています。日本はここにいて、プレートが潜り込んでいて、地震が起こります。これによって何が起こるかというと、これは生物多様性のホットスポットです。日本がここです。赤いところは、生物がたくさんいるホットスポットです。プレートが沈み込んで、そこにプランクトンが沸き、いろいろな生物が生まれてきます。こういったところに「生物の多様性」がでてきます。 それによって「農業」は、こういったところは、モンスーン型で、お米をつくっています。こういったところは、小麦と遊牧です。ここはホットスポットで生物がいろいろいて、暖かくて、水があって、乾季と雨季があって、お米が採れます。水田が広がっていくと、そこの水田から採れるお米というのが、1粒まくと例えば3000粒以上とかになって出てきます。ところがこのヨーロッパの麦だと、一粒まいても、30粒とか40粒しかできません。ですから、農地がこっちは水田ですから、非常に集約的で、一人が持っているものが小さくてもよいのです。こっちは一人ひとりが持っている農地が非常に広大になります。その形が都市のあり方に非常に影響してくるのではないかなと私は考えています。 もう一つは「文明」です。日本はここにあります。日本は、中国からいろいろ影響を受けている。それから、アフリカはいろいろなところから影響を受けている。そういった文明の立地というものが、日本だと中国から都市の概念が出てくる。そういった文明の立地というものも関与しています。それが先ほど言った、都市発展の歴史的経路にかかわってきます。

今私は、そういったものをまとめて、いくつかに分類してみました。日本というのはここで、モンスーンアジア南西帯です。バングラデシュぐらいまでですが、水が豊富で、そういったところがここです。それから欧米型アジアがあって、日本は実は、こういうところから都市モデルを持ってくる。こういうところで生まれたものを合体するというのは、それほどよいことではないのではと考えています。

■渋谷の東西性と多様性

では、「渋谷の東西性と多様性」です。これは、渋谷です。shibuya1000で去年か一昨年に私の学生がやった猫ですね。猫を放しているところをプロットしたものです。これが、そうです。うちの学生が猫を見に行って探したところです。そうすると、実は東西性というものはよくわかりません。おそらくこれは、さっき言った「都市居住環境類型」で、ここにお金持ちが住んでいて、ここら辺は高層ビルがあるなど。都市の中の非常に小さいところによって渋谷というのは分かれているのではないかということです。

もう一つは、この後皆川さんのお話にでてきますが、居住環境類型だけではなく、「渋谷の立地」というものが渋谷の東西性というものを生み出しているのではないかと思います。そういった地形によって規定されています。

結論です。今まとめてみるとこれは非常にマクロに見た日本におかれているものです。プレートがあり、プレートがあることによって、東西にいろいろな断層が入り、こっちの方に地形ができているということがあります。もう一つはモンスーン帯なので、川があり、そこに流域ができ、町ができます。これは渋谷川ですが、そこに水嶺ができたりしている。そういったものが渋谷でもあります。そういったモンスーンアジア型の都市にあるということが、渋谷の東西性を見出しているのではないかと思っています。また、鉄道が走って、プレートや立地によってできたところを走っているということです。渋谷のおかれている状況を、マクロ、ミクロ、それからこういうところから、たぶん東西性が生まれてくるのではないかなと私は考えています。

今日、シブヤ東西合戦ということで皆さん4つの話をされるはずです。「シブヤ東西凹凸合戦」というのは、今言った地形、日本がおかれている生態学的な立地から生まれてくるものを立地からみせるというのが皆川さんの話だと思います。これは、居住環境類型が生み出したものを、もう少し記憶にするということです。マクロ、ミクロから見て渋谷の東西というものが存在しているということが私は言えるのではないかと思っております。元々依頼が来たとき、渋谷における東西性というのはなんであろうと不可思議であったのですが、どうもそれは日本がおかれているところ、立地、あるいは東京、渋谷がおかれている立地から必然と出てくるものではないかなと私は思っております。

これは、冒頭の写真です。これは種明かしですが、渋谷の中心のところで私が逆立ちをしているということで、今日のお話を終わりにさせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。

 

村松 伸(総合地球環境学研究所・東京大学生産技術研究所 教授)
Shin Muramatsu
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