shibuya1000

Shibuya 1000_009 「シブヤ広場合戦」

2017(平成29)年3月14日(火)18:00~

8/COURT@渋谷ヒカリエ

04「拾う神と出会う場」

林 千晶さん(実業家/(株)ロフトワーク代表取締役)

プロフィール

林 千晶(はやし ちあき)実業家 (株)ロフトワーク代表取締役

花王を経て、2000年にロフトワークを起業。クリエイティブエージェンシーとして、Web、ビジネス、コミュニティ、空間、建築、地域など、領域にとらわれずに価値創造のプロジェクトを数多く手がける。台湾、スペインなど世界6カ国に展開するデジタルものづくりカフェ「FabCafe」も運営。
<ロフトワーク公式ページ>https://www.loftwork.jp/

 こんばんは。初々しい彼女のナレーションに、何だか聞いている側がドキドキしてきちゃって、緊張しちゃいました。座って、お話をさせていただこうと思います。
 最後に渋谷を考えて育ててきた川添さんや内藤さんと一緒にまとめのセッションをしたいので、私は簡単に5分ほどで終わろうと思います。

◆私が考えるシブヤの広場

 私にとってシブヤの広場は何かというと、先ほどからずっと"多様性"という言葉が出てきていましたが、"多様性"ってどことなく主語が誰で、何なのかが分からなくて。私の中で"多様性"というのは「拾ってくれる神様」なんです。どんなに少なくても、1人が考えていることを「それ、いいね!」って拾ってくれたら、人は「頑張って生きていける!」というか、そのことを「やろう!」と思える。みんなが同じことをよいと言うのではなく、いろんな拾う神様がいて、へんてこなものばかり拾っている神様がいっぱいいるのがシブヤの広場かなと思い、「拾う神様と出会う場所」と言いました。

◆渋谷には"拾う神様"がいっぱい!

 これまで、いろんな神様と出会っていますが、例えば「FabCafe」というのをやっています。先ほど内藤さんが「FabCafe行ったよ!」と言ってくださいました。うちの母親は「PubCafe」って言うんですよ。"Pub"のような"Cafe"のような、それでもいいんですが、その"Cafe"で水耕栽培の野菜をつくるもの(「スマート菜園foop」)をつくったんです。携帯でアプリケーションで育てられるんですが、レタスってスーパーに行ったら150円なんです。普通に考えると「わざわざ、こんな電気を使って、何日も待って使う人はいないんじゃないかな」と思ったら、私はこの機会に関しては、"捨てる神"だったんですが、渋谷なのでいろんな"拾う神様"がいて。どんな"拾う神様"と出会ったかというと、モダンガストロノミーのシェフがこれを見つけたときに「なるほど。これは素晴らしい!」と。どういうふうに彼が使ったかというと、根は普通土に入っていて土はバイ菌があるから切っちゃうんですが、水耕栽培なら根ごと食べさせられる。且つ、水で育てるから、その水の香りを替えたり、あるいは食べられる着色料を入れたら葉っぱの色が変わったり、食べたときの食感も変わる。そういうふうに"カスタマイズした新しい野菜をつくることができる"と彼が拾った。拾ってみてみると、今度はカリウムを取れない病気の方がいて、野菜にはカリウムが多いらしいのですが、それを減らすための水をやると病気の方も食べられるものに変わってくる。つまり、そういう可能性は誰かが拾って拾って、拾い合っていくと「あぁ!価値があった!」ということで、一般的に意味のないことも"捨てる神様"ではなく、"拾う神様"がいっぱいいるのが渋谷の良さです。

◆中国の「拾う神様」が教えてくれたこと

 私が、どんな"拾う神様"と会いたいかというと、渋谷で増やしたい神様は、"老人をどんどん拾う神様"であり、老人にとってのヒーローになるような神様に出会いたい。老後に自分が拾ってもらえるように調査をしてみました。その中で中国に行ったときにビックリしたことがあって。どういう神様がいたかというと、普通の公園で、彼らはどこでも踊るんですが、その踊る中にプロのダンサーではないけれど格好付けて踊る男の人がいて。この人の周りにおばちゃんたちがいっぱいいて一緒に運動する。歩く公園ごとにいるんです。そして、この人も神様として自信を持っている。何だかこれを見たときに「日本の広場って随分不自由な広場だな」って。「あれやっちゃいけない」「これやっちゃいけない」というルールがいっぱいあるなと思っていて。ガラガラとスピーカーを持ってきて、こういうふうに踊る。違う公園に行ったら、またここでも踊る。大きな音でスピーカーをかけてゴロゴロしている。そこにいつもヒーローみたいな人がいる。先ほど""ローカルヒーロー""と言っていましたが、こんな好きなときに好きな踊りをして、好きなヒーローが生まれ、踊るだけではなくてバドミントンはやるわ、自由気ままにパブリックを使う。こういう何でもやっていいような渋谷にしたい。特に「老人にとって自分のヒーローや仲間が見つかるような活動が至るところで生まれてくる場所になればいいな」と思いました。それは何故かというと、"拾ってくれる神様"と出会えたら、助け合う力が増すから。

◆助け合える、出会いをつくる"拾う神様"を

 最後のスライドです。"自分が生きていくうえで人の助けを必要とする量"そして"与え支える量"をグラフにしています。"二度童子"というように、当たり前ですが生まれた時は1人じゃ何もできなくて、段々できるようになって、子育てを少し手伝ってもらうけど、また歳をとってくるといろんな人に助けられないと生きていけなくなる。どうやって助ける産業をつくるかではなく、歳を取っても助けてあげられる関係をつくれるかが一番大切なんじゃないかなと思っていて、どんなに歳を取っても拾ってあげる、やってあげる出会いをつくれることが大切なんじゃないか、そのためには、どんどん出会える、老人が家の中にいるとか、公園を散歩して帰るのではなくて、拾う神様にするシブヤの広場をつくりたいなと思っています。
 ここからは、是非、川添さん、内藤さんも一緒にお話ができれば嬉しいです。(拍手)

~鼎談~

林 千晶さん(実業家/(株)ロフトワーク代表取締役)
内藤 廣(委員長/建築家・東京大学名誉教授)
川添 善行(代表幹事/建築家・東京大学生産技術研究所准教授)

川添:では、内藤先生の飛び入り参加で。
林:はい、是非! 本当は、3人でしっぽり1時間話したいくらいなんですが。
内藤:僕は予定外なので、川添さんと主にやってください。今日は「林千晶を拾ったか」みたいな感じだね(笑)。段々、僕ら年寄りがやれることは少なくなってくるので、さっきのグラフでいうと右肩の方。助けてもらわなくてはいけない方なので。
林:違うんですよ。そう思っている内藤さんが、気がついたら「俺こんなに拾い続けてるよ」っていう、まちにしたいんですよ。
内藤:渋谷に関しては、もうたくさん拾いすぎててね(笑)。
林:もっともっと拾い続けてください!
内藤:岸井さんと拾いすぎて、ポケットの中がいっぱいでもう歩けないぐらいになってるんです(笑)。
林:もっとやってあげられる機能をまちの中に増やすって、どうしたら可能なんでしょうね。
川添:広場ってお題を設定した懺悔感とそれを林さんみたいな人に救いを求めていたところもあって…。広場というものが要は、つまらないんですよね。何ていうんでしょう。
林:今の日本の広場は、つまらないところが多いですよね。
川添:それを破りたくて、特に都市計画の人が考える広場は、所謂、ふれあい広場とか人と人とが交流する感じになっちゃうんです。みんな和気藹々として仲良くなるための広場というのが、割と何となく言葉を変えても同じ所に行き着いてしまって。その不自由さが林さんが言っていた不自由さとつながると思うんです。太極拳をやっていても蹴鞠をやっていてもよくて、ああいうものはなかなか広場と言いにくい感じがありました。そういう話ができるといいなというのが今回企画した側の思いだったんです。
林:でも元々は、ふれあい広場だから、あんなふうにスピーカーを持ってきて踊るのだってふれあっているから。本当の意味でのふれあい広場ってああいうはずなのに何で日本のふれあい広場は感じられないんだろう。何のルールを変えると本当にふれあえる広場になるんでしょうね。それが知りたい。
内藤:何かいろいろ文句を言うと面倒くさいことになるんだよ。「子どもが怪我したらどうするんだ」とか、「年寄りが転んじゃったらどうするんだ」とか。そういうことがあると、どんどん管理する側の広場になるんだよね。だから、行政側がどこまで「見て見ぬふりをできるか」が林さんが言ったみたいな自然発生的な場が生まれてくる要点だと思うんだよね。要するに「不真面目にやる!」。
林:でも行政の人も本当は不真面目にやりたいんだと思うんです。不真面目というとあれだけど、ルールをつくりたいわけじゃない。文句を言う人が出ると対応しないといけないですよね。でも本当は文句を言う千倍ぐらい楽しんでいる人がいるのに楽しんでいる人は「今日も楽しかったです。ありがとう!」ってお手紙は書かないですよね。文句を言う人は直ぐに電話するじゃないですか。「今日もありがとう」って、みんなが市に書き続ければいいのかな。
内藤:そうだね。ポジティブな意見ね。
林:どうやったら市にもっと自由に「管理しないでくれてありがとう」「こんなことやらせてくれてありがとう」っていうメッセージを形にできるんだろう。
内藤:さっき「コミュニティ」とか「町内会」とか言ってたけど、それはすごく大切なことだと思う。広場って「コミュニティが管理しますから。起きることも私たちで始末しますから。区はいいです」って言ってくれると区の負担はうーんと減ると思うんです。多分それを言い出すコミュニティり主体性が大事なんです。「私たちがやりますから、もういいです」と言えるかどうかだと思う。
川添:この前ベトナムに行ったら、すごく大きなスピーカーをそれこそ広場に持ち込んで、おじちゃんとおばちゃんがチークダンスを踊っているんですよ。あの感じがすごくいいなと思って。
林:いいですよね!
内藤:見たくない人は、どうすりゃいいの?!
川添:見ないふりをしながらも、段々チークダンスの輪が大きくなっていくんです。
林:でも、見たくない人もいるんですよ。渋谷にラブホテルがない方がいい人もいるじゃない。でも「嫌だからなくせ」と一瞬は思っても共存しようとするトレーニングが渋谷はすごくよくできていると思う。

◆「いいね!」と言われること

川添:それをロフトワークの力でfacebookの「いいね!」みたいなのはできないですか。「いいね!」って簡単じゃないですか。
林:「いいね!」ね。
川添:広場にちょっとしたことで思いがどんどん溜まってくような仕掛けを何かできないですか。
林:佐賀の武雄市がニュースをfacebookで公開するようにしたら、市民から「いいね!」が付くようになったの。今までは「いいね!」と思ってくれている人がいる意識がなくて、クレームが来ないようにばかり書いていたのが、こうすると「いいね!」が付くことが分かったら「いいね!」と言われるようにニュースを書くようになって、最終的には「いいね!」と言われることをニュースにするようになったというから、「いいね!」だけでもすごく価値があると思うんですよね。
川添:それは実空間でやるときに、例えば、植木にちょっとリボンを巻いて帰るとか何でもいいけれど、何かちょっとした工夫。靴を片方置いて帰るとか何でもいいんです。そういう工夫があって、それがデザインとしても面白くて使っている人が「いいね!」って。
林:小宮山さんがタイフードフェスをやっている横でゾンビウォークをしているっていっていたじゃない。お互い関連性もないし、嬉しくはないだろうけど渋谷だと「いいね!」ってなるじゃない。他のまちでは、そうならない気がする。この渋谷の強さって何でしょうね。私は、そんな渋谷が大好きなんです。横で全く関係ないゾンビウォーク、タイフード、アラビックも。
内藤:渋谷は「文化の胃袋」が強いんじゃないかな。 他のまちですると直ぐにみんな消化不良を起こしたりダメになるけど、渋谷という街は雑食性で何を食ってもちゃんと消化してくれるんだと思うんだよ。ゾンビとタイフードをやっても、もっと違うことをやっても、何かちゃんと受け止めてくれるようなのが渋谷のいいところなんじゃないかな。

林:それは歴史的にそうなんですか?それとも渋谷の胃袋が強くなる秘訣があるんですかね。
内藤:よくわからないけど、たぶんね、岸井さんに聞いた方がいいかもしれないけど渋谷はかなり自然発生的にできたまちだと思います。元々、行政的に固まってできたというよりは沸いて出てきたようなまちだから。それもあって、元々コミュニティの力が強いんじゃないかな。それがよいところだと僕は思います。

◆渋谷の「広場」

林:コミュニティが同質的で強すぎると例えば、お金持ちが住んでいるエリアは「保育園なんて来るな。うるさい!」っていうコミュニティが強いが故にそういうことも生まれる。そうではない、コミュニティがあって違うコミュニティも一緒にいられるための広場をつくるために何が必要か、2人からアドバイスだけもらって終わりにしたいです。いいですか?
川添:やはりコミュニティって最近すごく重要だと思うし、だけど幻想だとも思うんです。なんでしょう。美しいものではないじゃないですか。「1人になれる場所」が広場だと思うんです。本当の意味で。家に閉じこもるのではなくイヤホンをして周りの情報をシャットアウトしてとかでもなくて、1人になりたい場所が広場だったらスゲ-いい広場な気がして。隣の人も1人かもしれないし、こっちの人も1人かもしれないけれど、でも一緒にいられたら、それが2人になっても3人になってもいいと思うんです。仲良くする場所が広場だと言われたら結局それは一つの集まりにしかならなくて、すごく居心地の悪い広場だと。「1人になりたいときに渋谷に行こうと思ったら本当は、それが一番いいまちなんじゃないかな」と僕は思いました。
内藤:コミュニティっていうのは地続きとは限らない。町内会は地続きだけど、江戸時代の「講」は地べたに縛られていない。サークルでまとまりになっていて、幾重にも重なり合っていた。自由だった。だから、江戸時代の方が複雑に上手く社会システムを作ってやっていた気がする。そういうコミュニティでいいと思うんだよね。ある人は参加しているしある人は別のグループに参加している、みたいな何重にも輪が描けることでいいと思う。そういう開かれたコミュニティだと、排他的なことはないはず。
それから広場については、みんな「ハチ公広場」に頼りすぎかな。あそこは今まで本当に素晴らしいパーフォーマンスをしてきた。だけど「頼りすぎていませんか」と言いたい。「ハチ公広場」が大だとしたら、大中小くらいに無数の広場が渋谷にあって「FabCafe」あたりにもあったりとか。区長もストリートカルチャーと言っているんだから、ハチ公前広場で起きているようなことの飛び火したのが渋谷中にあるとか、そうだと楽しいまちになると思う。ひとりぼっちが好きな川添さんは、そういう中のひとりぼっちになれるような広場を選べばいいわけだし、友達をつくりたい人は違う広場に行くとか。これから、そういうふうになっていったら、もっともっと素晴らしい街になるはず。
林:ありがとうございます!(拍手)

 

林 千晶(実業家/(株)ロフトワーク代表取締役)
内藤 廣(委員長/建築家・東京大学名誉教授)
川添 善行(代表幹事/建築家・東京大学生産技術研究所准教授)
  • 8/COURT@渋谷ヒカリエ