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Shibuya 1000_008 「シブヤ上下合戦」

2016年3月18日(金)19:00~

@イベント&コミュニティスペース dots.

04 「地図と地形からの渋谷」

石川 初(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授)

プロフィール

石川 初(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授)

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科/環境情報学部教授。1964 年京都府生まれ。東京農業大学農学部造園学科卒業。登録ランドスケープアーキテクト(RLA)。東京スリバチ学会副会長。GPS 地上絵師。

■04:「地図と地形からの渋谷」

▷石川 初(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授)

岩本さんの動画に、あまりに心が揺さぶられたと言いますか、ドキドキしているんですけど、歩かなきゃいけないなみたいな、そこの速度でまちは体験しなきゃいけないなというようなことをちょっと思いました。
今日、浜田さんのお話がすごく示唆的で、とても感動しました。「あ、そうか。彼女たちは戦っていたんだ」みたいなことを思って、手元のパソコンで「ニューギニア 戦士 顔」とか検索すると、こういうのが出てきて、「あ、これじゃん」みたいな。やっぱり彼女たちは戦っていたみたいなことをちょっと思っていました。
今日の最後が私でいいのかっていう話はありますが、始めたいと思います。
私は、地図や地形図に仕事柄大変興味をもって普段そういうものを見ているのですが、今日は、ちょっとそのぐらいのスケールからもう一度渋谷について考えたことをご紹介します。それからちょっと渋谷に限らず、地形図がもたらす、なんか見方みたいなものも少しご紹介できたらいいかなと思って用意してまいりました。ただ張り切って用意したらすごい枚数になってしまったのですが、おまけに進行も遅れているので、テキパキとしゃべらせていただきます。

◆地図と空中写真、地形図では、まちの見え方が異なる

これは渋谷の付近の空撮です。地図と空中写真って写っているものがまったく違うんで、読み取れることが全然違う。例えば、これで言うと、明治神宮の森の緑のボリュームとか、それから表参道がビルの帯になっているようすとか、色々と印象的で、地図とはまた違うものが読み取れるわけですけれども、同じスケールでも地形だけを表示すると、出てくるものがまったく違うんですね。これは表参道です。表参道の断面がV字型をしているのは、渋谷川を直角に横断しているからなんです。最近非常に地形図とか地形でまちを見るということが浸透してきたので、このような地図をご覧になったことがあるかもしれません。でも、ここから読み取れること、あるいはこれを見ることによって見えてくるまちのことが全然違うっていうのをちょっとご覧いただけるといいと思います。
こうやって見ると、渋谷駅がここにあって、明治神宮の丘がこう迫ってきていて、渋谷川と宇田川が渋谷の駅前で合流しているということが、地形データを立体的に表示してみるとよくわかります。そういうものを見てから、マークシティにつながるブリッジの上からここを見ると、完全にこれが川に見え始めるんですよね。ここが川に見えるのは、人が横断しているときよりも車が流れているときのほうが川っぽく見えます。そして、下に降りて先ほどのブリッジを見上げると、これは渓谷に架かっている橋に見え始めるみたいな。そういう見方があるということですね。

◆地形図から地形を読み解く〜渋谷の谷底に位置するスクランブル交差点〜

みなさんが言及されていましたし、映像でも非常に印象的に捉えられていたスクランブル交差点ですけれども、スクランブル交差点に身を置いたときのこの何とも言えない高揚感みたいなものというのは、ここが大きなスリバチ状の地形になっていて、どこを見ても見上げるかたちになっているからだと言えます。それは、渋谷って、駅前に出るとどっちに行っても上り坂としてまちが見えるっていう、この高揚感が渋谷の印象を強く変えているというふうに考えるわけです。

◆地形図に簡単にふれられる時代

今ご覧いただいているような、デジタル地形データっていうのは、ここ数年一般的になってきたもので、国土地理院が公開しているものです。一方、これは私が一生懸命作っていた地図ですが、これまでの地図はこういうもんだったんですよね。地形図というのは、等高線を読み取って手で色を塗ったりとかして、東京の地形ってこうだったのかみたいなことを読み取ろうとしていた時期があったんですね。ここから立体を想像するというのは、かなり独特のトレーニングが必要でしたが、今、同じスケールでデジタル地形データを表示すると、こういう立体的な絵として簡単に表示できるのです。この現在公開されている国土地理院の地形データというのは、最小で10cmぐらいの差が表示できる精度があります。10cmというと歩道と車道の間ぐらいですよね。それを地形図として表示できるということになり、今までは見たこともないような地形図をこのようにしてパソコンで表示することができる時代になったということです。
デジタル地形データというのは、地表を5mおきに標高を表示、記述してあるデータなので、無理やりテキストリーダーで開けると、こういう画面になるんですね。数字が地形を描いているのがよくわかります。こういうのに萌えるようになると相当やばいですよね。これは多摩川のデジタルデータですが、私はこれに感動したんですけれども、あまり共感を得にくい感動ですよね。

◆東京の地形からみえるもの

これは東京というか都心部全体の地形図です。皇居はここにあって、ここらへんはお茶の水で、渋谷はここです。非常に印象的な、今までは図像としては見たことのない、そういう地形図が簡単に見られるわけです。これは都心の地形図ですが、六本木ヒルズがこのように高い地形になって、あとで申し上げますけど、これも色々とこう詳しく見始めると面白いんです。最近、スリバチ学会なんかがよく広報しているのでご存知の方もいらっしゃるかと思いますけども、東京の都心って非常に複雑に谷が発達しているのが特徴なんですね。特に都心の場合は、こうやってよく地形図を見ると、1つ1つの地形がモザイク状にこう四角く造成されているのを見ることができます。これはなぜかっていうと、もともと自然の地形が斜面だったところに都市化すると敷地の単位で平坦に造成するからなんですよね。それによって、地形がこういわばモザイクがかけられたようにデジタル化するっていうような現象が起こります。これは同じスケールで見た駒沢あたりの世田谷の地形ですが、住宅地のほうが開発の単位が小さいので、こういう、こう微地形が温存される傾向があるんですね。都心のほうがクラスターが大きいみたいなことが起きる。それから、急なところのほうがこういう粗い造成になっているということもわかります。これがデジタル化された地形ってこういうふうに見えるという典型例です。下から見ると、個々の敷地では地形が消滅し平坦になっているけれど、全体としてはなんとなく地形が温存されていることがわかります。
こういうところに行くと、よくこの水抜き穴が壁にあるのを見ることができます。水抜き穴は何をしているかというと、もともとこういうふうに流れていた水を、壁が止めてしまわないように、こうやって水を抜いて、水系を維持していると言うことができます。だから、このように流域としては残っていることが見てとれるのですが、ここに降った雨は、この水抜き穴から抜けて手近にある排水溝に流れていくため、表面からは見えなくなってしまいます。

◆水のインフラと地形からみる近代化

これは、下水道の本管だけで描いた都心の地図です。今は東京都に言ってももらえないのですが、昔、図面をもらってきてそれをトレースして、こういうものを作りました。これが地形にばっちり合っているんですよね。下水道って、自然流下させる必要があり、かつ、以前は河川に汚水を流していたこともあり、それがそのまま暗渠化して下水道の本管になっている例があるので、このように下水道の本管は、地形に沿って描かれることになります。
一方で、上水道の本管だけで描いた地図を作ってみましたが、これはまったく違うパターンを描いているのがご覧いただけるかと思います。上水道は水を圧送するのであまり地形に関係なく、むしろ上水道のミッションっていうのは、なるべくこう万遍なくまちじゅうに水を届けるということであるので、このようになるのです。これはつまり網目状のタンクみたいなもので、その中に水の圧力がかかっているのです。そこに穴を開けてチューっと出てくる水を我々は使っているみたいな、そういうことになっています。
このように、水のインフラは上水と下水ではパターンが全然違っていて、重ならないのです。動脈と静脈みたいなふうにも見えてきます。
ただし、もともとの上水はこうだったわけではなく、自然に流化させて、町中に水を行き渡らせようとしていた時代もあります。例えば、江戸期の上水の跡をプロットすると、台地の尾根に描かれることになります。尾根をトレースしている。

だから、この時代の伝統的な上水と下水の関係というのは、地形的に補完関係を描いています。上水で流れてきた水を使って下水に流す、もともとの水の利用のしかたです。このように、それぞれ異なるパターンを描く水路が重なって地形的な位置の補完関係を描いていたパターンから、異なるシステムがオーバーレイされて現在の水路網に至っているというのが、水のインフラの近代化の過程であると言うことができます。

◆あなたの身体は「土木技術」と「自然・地形」をつなぐメディア

今、東京都の水を賄うために、もともと東京に流れてくるはずのない水系から、ものすごい水が持って来られています。要するに、これは、水系というか、流域が拡大されているというふうに考えることもできます。こうやって圧送されているからこそ、現在の上水は地形と関係なく張りめぐらされ、局所的に地形が解除され、そこから水が下水に流れ込んでいく、その途中で私たちは水を使っているのです。
建物のスケールで考えると、こうやって圧送されてきた水とそれを受ける排水溝みたいなものが枝状にあって、そこから外に流れていくというパターンとして考えることができます。このぐらいのスケールで見ると、伝統的な上水と下水の関係みたいなものが水にはあるみたいに考えることもできるってことですよね。
そんなことを考えて、この水を使い始めると、もう以前のように水を見ることができなくなります。水道をひねると、これがダムの末端に見えてくるということ、それは地形の入り口にしか見えないということになります。水栓からは日本の土木技術の粋を結集して浄化された水が圧送されてくるんです。それをほんの30cmここを通過して、体の表面をちょっとなでただけで、消えていっちゃう。これから長い地形の旅に入っていくっていう。ここで起きている水のモードの変化というのはすごいことなのです。ここを通過した途端に水が「人工」から「自然」に切り替わるということです。もう次に顔を洗うときには、水がこういうふうにしか見えないということが今の狙いなんですけれど(笑)。
これをもっとも端的にショートカットする装置があります。トイレです。飲める水が二度と飲みたくない水に変化していってしまうのです。なので、次から、みなさんがここに座られるときにここで何が起きているかというと、みなさんの身体がメディアになって、「土木技術」と、都市の下にある「自然・地形」みたいなものに接続しているというふうに想像してみてください。

◆地形には歴史の名残が隠されている

これは台地をうまくパターン表示できるように、海抜10mから50mの間をいろんな差が出るように表示した地形図です。
低地部分というのは、ペタッと平坦なように見えて、実は、例えば海抜0 mから3mぐらいの間を黒から白で表示すると、50cmや1mぐらいの差で地形が浮かび上がってくるんです。なんかこうレントゲン写真や炙り出しのように、微妙な地形が浮かび上がってきて、それを見ることで、ここにその土地利用の歴史みたいなものが傷のように残っているということを観察することができます。こうやって、もともとの地形と人工的に作った新しい地形みたいなものが地面に記憶として残っているんです。
これは空撮写真では、なかなか見ることができないのですが、このぐらいのスケールで見ると、浅草や吉原は、江戸時代に造成した土地がいまだに地形として残っていることがわかります。このように、歴史が年輪のように地面に微地形として残っているのです。これは銀座付近です。銀座はちょっと周りよりも高くなっていて、これは江戸前島の名残です。お茶の水に目を移すと、江戸時代に掘削した神田川の流路であることがはっきりわかります。お茶の水に行くたびに、ここを手で掘ったやつがいるのかと思うと、すごい泣けてきます(笑)。そういう歴史が地形になって残っているってことです。
一方、多摩川に目を移すと、多摩川の河口はちゃんと三角州を描いています。その外側に京浜工業地帯や羽田の飛行場、大井の埋め立て地があるので、人工的な海岸に見えますが、実はその内側に自然海岸の名残みたいなものが残っているということが、このぐらいのスケールで見るとわかります。さらに多摩川の上流にいくと、川が流路を変えていった経緯みたいなものが微妙な地形になって残っていて、それが今の土地利用に影響しているということも、このように地図を見比べてみることでわかります。

◆東京湾岸はレジ袋の地形が育てられている真っ最中

東京湾岸の場合は、このように海岸が非常に人工的な地形を描いているというのが特徴ですが、これを地形図で表示してみると、もはやこれってその新しい人工の地形としか言えないようなスケールで改変が行なわれていることがわかります。そして、その新しい地形のほう、新しい埋立地のほうが、高潮から守るために高く盛られる傾向があります。なので、東京の特に下町の場合には、内陸から海岸に向かうと、海に行こうとしているのに坂を上んなくちゃいけないという逆転現象が起きるんです。江戸川区の標高最高地点というのは葛西臨海水族園の先で、江東区の標高最高地点はこのゴルフ場の先端なんですよね。そして、今まだ所属が決まっていない中央防波堤外側埋立地というのがあります。そこは今ゴミを埋め立てて地形を育てている最中なのですが、ここは標高が30mぐらいあって、もう本郷とか上野よりも高くなっているんです。ここの地形は育っている最中ですので、城南島海浜公園とかに行くと、海の向こうにエアーズロックみたいなものがバーッと浮かび上がっていて、「あれ?いまだに高くなってんのか!」みたいな、ちょっとシュールな光景を見ることができます。平日しかやっていませんが、申し込むとバスツアーで中央防波堤外側埋立地を見に行くことができます。よく見ると、この白いゴミの山はレジ袋なんですね。ゴミによって地形ができていっているという光景を目撃することができるのです(笑)。

◆地形図は現存する都市の痕跡をみせるための遺跡の発掘作業の集大成

今ご覧いただいている国土地理院のデジタルエレベーションモデル(Digital Elevation Model)というのは、地上を航空機からレーザ測量することによって得られるデータで作られた地表モデルです。レーザ測量すると、樹木も建物も場合によっては人までも全部スキャンしてしまうので、それを整理して地形図に直して編集する作業がされています。作り方は国土地理院のウェブサイトに書いてありますが、誰かが手でやっているみたいですね、これ。すごくやりたくない作業ですが、これは驚くべきことで、どこが地面であるかということを国土地理院さんが決めていっているということなんです。この説明を読んだときに思ったのは、要するに、地形図を作るというのは考古学の発掘の手続きに非常に似ているなということです。ここが何だっていうのを決めながら、こう地面を定義していくという行為であるので、地形図をこう表示してみると、これが遺跡みたいに見えるのは、言ってみれば、あらかじめ都市の痕跡を見せているみたいなふうに読むことができるんじゃないかと考えてしまうわけです。国土地理院がこれは地形だというふうに認定した、つまり図ですよね。

◆地形図で「施設」と「地形」を見分けられる?

例えば、これは横浜の大桟橋です。この国際コンペで勝利したチームの設計者が、これを設計したときに、「新しい地形を作った。」とかいう触れ込みがありました。我々ランドスケープの人間からしてみると、「屋上に芝生を植えて地形とか言うなよ!」みたいな、「これ、建築じゃん!」などと思ったのですが、国土地理院の地形データによると、これは地形だとされていて、非常に敗北感を味わったわけです。「やられた。これ地形だったのか。」みたいな。そういうことです(笑)。
次に、海ほたるです。海ほたるは、国土地理院的には地形なんですよね、あの島は。あれは島であるということが、地形図を見ることによってわかります。そして、木更津に向かう橋梁は人工物として表現されてはいますが、橋脚が地形として入っているので、東京湾横断道路の橋脚のほうは国土地理院的には地形なんだということがわかります。
渋谷付近の地形をよく見ると、宮下公園が地形視されています。あれは下に駐車場があるという事情とは関係なく、国土地理院的には、あれは地形だというふうにみなされているということになります。
また、ディズニーリゾートを見てみると、ディズニーシーのプロメテウス火山も地形なんです。この標高51mの山は、浦安市でぶっちぎりの最高地点です。一方で、ディズニーランドにあるはずのビッグサンダー・マウンテンは、施設として地形からは除去されている。これは非常に興味深いですよね(笑)。
どこかに国土地理院的な「施設」と「地形」のボーダーがあって、こちらは地形でこっちは施設であるというふうに考えられているということが推測されるということなのです。

◆渋谷川は都心のかわいいインディーズ小河川

最後に、ちょっと最近おもしろいなと思っている地図をご紹介して終わりたいと思います。
これは川だけで描いた日本列島の地図…「川だけ地図」です。これいいよね、みたいな。これも多くの共感は得にくい喜びなのですが、川だけで書いた地図って結構すごいですよね。細かい話をし始めると夜が明けてしまいますので、あれなんですけど。。。
例えば、富士山には、ほんと川がありません。砂利山です。その代わり、富士山のふもとのほうには非常に密に川が集中しています。
ここは荒川流域ですが、荒川水系は、荒川だけでなく様々な用水路や付替河川が網の目のように発達していて、ここに一大農業地帯が形成されているわけです。
これが利根川、ここが武蔵野台地です。武蔵野台地にはあまり川がないですよね。だから田んぼがなかった。そのようなことを「川だけ地図」を見ることによって読み取ることができます。この地図を見慣れてくると、どこがどうだっていうみたいなのがわかってくるというか、非常にこう面白い地図なんです。押し付けがましい言い方で、すいません(笑)。
この皇居のお堀が川なのかよ、みたいなそういうツッコミももちろんあるとは思いますが、面白いのは、東京周辺の川というと、荒川流域か多摩川流域に分かれているんですよね。神田川もここで荒川方面に合流していくので、いわば荒川流域の1つであるというふうにみなすことができますが、いくつか独立系の小河川があるんですね。私は、メジャーな河川に合流しない「インディーズ小河川」というふうに名付けたのですが、東京には「インディーズ小河川」が3本くらいあるんです。その1つが渋谷川なんですよね。立会川、目黒川もインディーズなんです。
大きな河川に合流せずに、東京湾に流れ込む。渋谷川ってインディーズなんですよね。大きい河川に合流しないまま東京湾に流れ込んでいるという川であるということを、この「川だけ地図」を見ていることによって再発見しました。
だから、地形マニアとしても、このかわいい渋谷川を応援したいというふうに私は思っているということです(笑)。
そういうところで私のプレゼンテーションを終わります。ありがとうございました。(拍手)

 

石川 初(慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授)
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